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Shopify・Salesforce・Adobe、AIエージェント対応の設計思想を比較する

Shopify・Salesforce・Adobe、AIエージェント対応の設計思想を比較する

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ECプラットフォームを支える3社、Shopify・Salesforce・Adobeが、それぞれAIエージェントへの対応を進めている。3社とも「MCP(Model Context Protocol)」というキーワードが共通して登場するが、その使い方や設計思想には違いがある。3社の技術的なアプローチをコンセプトレベルで比較する。

Shopify:MCPという開かれた規格を軸にした設計

Shopifyは、Anthropicが開発しオープンスタンダードとして公開した「MCP(Model Context Protocol)」を、自社プラットフォーム全体の設計の軸に据えている。MCPは、AIモデルが外部のツールやデータにアクセスする方法を標準化する規格で、対応するAIクライアント(Claude、ChatGPT、Geminiなど)であれば、共通のインターフェースを通じて接続できる。

Shopify公式の開発者向けドキュメントによれば、この仕組みは大きく2層に分かれている。1つは、認証不要で使える基本的な「Storefront MCP」で、カート情報の取得やショップのポリシー・FAQの検索など、基本的な機能を提供する。もう1つは、カート作成・チェックアウト・注文照会など、実際の購買行為に関わる操作を担う一連のMCPサーバー(Cart MCP、Checkout MCP、Order MCPなど)だ。こちらは興味深いことに、GoogleとShopifyが共同開発した規格「Universal Commerce Protocol(UCP)」の仕様を、MCPという通信の仕組みの上に実装したものだと、公式ドキュメントに明記されている。つまりShopifyの内部では、「MCP」という接続の規格と、「UCP」という購買行為の内容を定義する規格が、組み合わさって動いている。加えて開発者向けには、店舗の構築・カスタマイズを支援する「Dev MCP Server」も用意されている。

なお、Shopifyの「Sidekick」は買い物客と直接対話するものではなく、店舗運営者(マーチャント)が管理画面で使う運用者向けのAIアシスタントだ。2026年1月以降はMCP経由でサードパーティアプリのデータも参照・操作できるよう拡張されている。買い物客が実際に対話する消費者向けの機能としては、これとは別に、メッセージ機能「Shopify Inbox」を通じたAIセールスアシスタントがストアフロント上に用意されており、Shopアカウントと連携したパーソナライズされた商品提案を行う。

この設計の考え方は、「1つのMCPサーバーを作れば、対応するすべてのAIプラットフォームで動く」という点にある。AIプラットフォームごとに個別の連携を作り込む必要がなく、Shopify側は規格に沿ったサーバーを用意するだけで、ChatGPT・Gemini・Claudeなど複数のAIから同じように呼び出してもらえる。

Shopify公式ブログ(2026年6月18日更新)によれば、「Agentic Storefronts」という販売チャネル機能を通じて、加盟店の商品情報は複数のAIプラットフォームに自動で連携される。その内訳は、ChatGPT(OpenAI)向けにはACP(Agentic Commerce Protocol、OpenAI・Stripe主導)、Microsoft CopilotおよびGoogle検索のAI Mode・Geminiアプリ向けには、いずれもUCP(Universal Commerce Protocol、Google・Shopify主導)が使われている。つまりUCPはGoogle単独の規格ではなく、Microsoftも採用する業界規格になりつつある。

Salesforce:Shopper Agent(顧客向け)とMerchant Agent(運用者向け)

Salesforceは、Agentforceの中核に「Atlas Reasoning Engine」という独自の推論エンジンを据えている。Salesforce公式(Trailhead)は、これを「独自開発(proprietary)のシステム」と説明しており、Agentforceの「頭脳」にあたる部分だ。ユーザーの目標を段階的な計画に変換する「プランナー」、必要なツールや操作を選ぶ「アクションセレクター」、実際にツールを呼び出す「ツール実行エンジン」、会話履歴や文脈を保持する「メモリーモジュール」といった要素で構成され、Chain-of-ThoughtやReActと呼ばれる手法で段階的に推論する。Atlasは、Salesforceの顧客データ基盤である「Data Cloud」に接続し、そこにある企業データを根拠にアクションを実行する。このAtlasが、以下に挙げる複数のエージェントに共通の「頭脳」として使われている。

ECの顧客体験という観点では、2026年6月24日に一般提供が始まった「Shopper Agent」が中心になる。これは買い物客と直接対話する消費者向けのエージェントで、ブランドの自社ストアフロント上で、商品の発見から相談、決済、購入後のサポートまでを1つの会話の中で完結させる。在庫状況の確認、配送カットオフ時間の案内、店舗受け取りの提案なども行う。導入方法としては、Salesforce Commerce Cloudの従来型アーキテクチャ(SFRA)向けの専用カートリッジや、ヘッドレス構成向けのManaged Runtime環境などが用意されており、いずれもSalesforce Commerce Cloudの基盤に組み込む形で動く。法人向け(B2B)の購買には「Buyer Agent」が用意されており、WhatsAppやSMS上での発注、画像によるSKU確認、契約価格の適用などに対応する。

一方、「Merchant Agent」は買い物客と直接対話するものではなく、店舗運営側(マーチャンダイジングチーム)が使う運用者向けのエージェントだ。自然言語での指示によって、カタログの整理・商品の並べ替え・トレンドへの対応などを行う、いわば「マーチャンダイジングチームの拡張」だと説明されている。

2026年6月24日の大型リリースでは、これら3つのエージェント(Shopper Agent、Buyer Agent、Merchant Agent)が同時に一般提供された上で、ChatGPTへのネイティブ統合、Google検索(AI Mode含む)・Geminiアプリへの対応も発表されている。同じリリースでは、買収した企業Cimulateの技術を基盤とする商品検索エンジン「Agentic Commerce Search」も発表されており、こちらはShopper Agentとは別に、Salesforce以外のストアフロントにも導入できるという。決済・チェックアウトの規格としても、SalesforceはACPとUCPの両方に対応している。ACPについては2025年10月、Stripeとの連携でChatGPT向けのInstant Checkoutに対応し、UCPについては2026年1月15日、Googleとの提携拡大を公式発表している。つまり決済規格のレベルでは、Shopifyと同様にSalesforceも両陣営の規格を取り込んでいる。

Adobe:Commerce MCP ServerとLLM Optimizerを軸にした設計

Adobeも、ShopifyやSalesforceと同じ課題(AIエージェントに商品情報をどう届け、購買体験にどう組み込むか)に取り組んでいる。ECの顧客体験という観点で見ると、Adobe Commerceには大きく3つの要素がある。

1つ目は「Commerce MCP Server」だ。これはShopifyのMCPサーバー群と同じ考え方で、商品カタログ・カート・価格・在庫・決済・注文管理といった情報を、標準化された形でAIエージェントに公開する。開発者はこれを使って独自のショッピングアシスタントを構築したり、外部のAIエージェントと連携させたりできる。

2つ目は「Brand Concierge」だ。これはAdobe Commerceのストアフロントに直接組み込まれる、消費者向けの会話型ショッピング体験で、2026年4月のAdobe Summitで統合が発表された。買い物客がBrand Concierceに話しかけると、リアルタイムの在庫・価格情報をもとに商品を提案してくれる。あわせて、意図を汲み取って商品を絞り込む「Catalog Agent」も用意されている。

3つ目は、Adobeに特徴的な「LLM Optimizer(LLMO)」と、それに連動する商品ページの最適化機能だ(なお、LLM Optimizerは2026年6月17日、Semrushのデータベースと統合され「Adobe Brand Visibility」という名称に進化している。以下では発表当時の名称であるLLM Optimizerと表記する)。「PDP Enrichment」は、商品詳細ページ(PDP)に、AIエージェントが読み取りやすい形式で商品のバリエーション・仕様・使用例などの情報を追加で埋め込む機能で、人間の買い物客が見る画面は一切変わらない。CDNのエッジ層で、AIエージェントからのアクセスに対してのみこの拡張情報を返す、という仕組みだ。あわせて「Product Catalog AI Enrichment」は、商品名や説明文がAIにとって曖昧・専門的すぎる場合に、AIが理解しやすい形に書き直す提案をしてくれる。LLM Optimizer(現Adobe Brand Visibility)自体は、自社の商品がAIの回答・レコメンドの中でどれくらい引用されているかを測定するツールで、Adobe CommerceのPDP Enrichmentと連動して動く。ShopifyのMCPサーバー群が「AIエージェントに直接データを渡す」仕組みだとすれば、こちらは「検索・生成AIの回答に商品情報が正しく引用されるよう、コンテンツ側を最適化する」という、一段階手前の仕組みだといえる。

決済・チェックアウトの規格についても、Adobeは2026年2月18日、UCPとACPの両方に対応する方針を公式発表している。これはさらにその前段階で表明していた、Google主導の決済認証規格「Agent Payments Protocol(AP2)」への対応を拡張する形だった。Adobe公式サイトの製品ページ(2026年6月更新時点)では、「Adobe CommerceはGoogleのUCPとOpenAIのACPの両方に対応している」と明記されている。

なお、Adobeにはこれとは別に、マーケティング・CXチーム向けの社内運用ツールとして「CX Enterprise Coworker」という製品もある(2026年4月発表、旧「Agent Orchestrator」の後継)。これはBrand Concierceを含む複数のAdobeアプリの動きを裏側で調整・最適化する運用者向けのレイヤーであり、買い物客と直接対話するものではない。ECの顧客体験という観点では、上記のCommerce MCP Server・Brand Concierge・LLM Optimizerの3つが直接関わる部分になる。

まとめ

3社とも「AIエージェントに商品情報をどう届け、購買体験にどう組み込むか」という同じ課題に向き合っているが、そのアプローチは異なる。決済・チェックアウトの規格(ACP・UCP)への対応自体は、2026年前半のうちに3社とも出揃っており、この点では差がなくなりつつある。違いが表れるのは、買い物客と直接対話する部分をどう作っているかだ。Shopifyは、MCPという業界標準規格の上にCart・Checkout・Order MCPを構築し、ストアフロント上の会話型購買体験につなげている。Salesforceは、Atlas Reasoning Engineという自社開発の推論エンジンの上にShopper Agent・Buyer Agentを構築しており、Salesforce Commerce Cloudの基盤と密接に結びついた形で動く。Adobeは、Commerce MCP Serverを通じてAIエージェントに商品カタログ・在庫・価格・カート・注文操作へのアクセスを提供しつつBrand Concierceという会話型体験を統合し、さらにLLM Optimizer・PDP Enrichmentという、生成AIの回答内で商品情報が正しく引用されるよう最適化する独自機能を持っている点が特徴的だ。同じ「AIエージェント対応」という言葉の中にも、規格に乗るか、自前で作り込むか、あるいはAIからの見え方そのものを最適化するかという、アプローチの違いが表れている。

情報源:

観察日:2026-08-09|Commerce × AI Observatory